『夫が脳で倒れたら』外伝『一方、妻は松葉杖』3〜希望の搬送先を言ってみた〜
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救急搬送先は、幸いにもトドロッキーのかかりつけの病院となった。
ダメ元でその病院に運んで欲しいと希望した。希望したからって通る道理にないことは知っている。だから「幸いにも」だ。
東京消防庁のHPにだってこんな記載がある。
Q:救急車は、自分が希望する病院へ搬送してくれるのか
A:救急車は、原則として、症状に対応ができる一番近くの病院へ搬送します。
(「よくあるご質問・回答一覧」より抜粋)
救急車は、次の患者に備える必要があるから、ひとりの患者に無駄に時間をかけるわけにはい。近くの病院で事足りるなら当然近くの病院に運ぶ。異論は全くない。
その日は平日だったけれど診療時間はとっくに終わっている時間だったから、搬送先の選択肢は少ない。そんな中、救急隊員に提案されたのは、酢具底救急病院(仮名)だった。
「いいですか?」
同意を求められた。というより確認なのだが。いやでも、これはまさに病院を決める重要なターンではないか。私が異常にピリッとするやつだ。トドロッキーの時の経験を経てそうなった。(経験とは『夫が脳で倒れたら』で書いたあたりのこと。トドロッキーが最初に入院した病院は、今は経営陣、医師陣が入れ替わったようだけど、建物を見るだけでトラウマで今でもやっぱり好きじゃない)
救急隊員の提案に頷付く前に、ユルリ気が抜けていた脳がイイノソレデ?とソワソワし始めた。
最初にかかる病院がどこかってことがものすごく大切だってこと、あんなに思い知ったじゃん!と脳内の声が煩い。
提案された酢具底救急病院は以前もかかったことのある病院で、ちゃんとしている病院だとわかっていたから、病院事態に不満はない。でも、別の意味でそこじゃない病院がいいかもだ。
「見晴病院(仮名)にかかりたいんですが」
見晴病院も救急を受け付けているはずだ。
「かかりつけですか?」救急隊員が聞く。
「外科で診察してもらったことがあります」まったくの別件で、しかも十年近く前のことだが。
救急隊員は渋る顔を隠さなかった。そうでしょうとも、こちとらダメ元で発言しております、すみません。
トドロッキーの件を考慮した。トドロッキーはその頃、いつ倒れても不思議じゃない弱々しさでなんとか生きている感じだった。数日おきに体調不良で悶絶していて、そんな時に私にできることもとくにないわけだけど、見守る責務にはついていた。
アキレス腱を切ってる場合じゃなかったのだけど、切ってしまったんだから仕方ない、今やるべきことはトドロッキーに何か異変があった時になるべく対応できるようにしておくことだ。
救急車を待つまでに親切な人たちから得た知識でいけば、私はこれから手術をするために入院をする。搬送先でそのまま入院する可能性は低いが、手術日を決めて一度自宅に戻る手はずとなりそう。
「運ばれた先の病院で手術を受けることになりますよね? 見晴病院で手術を受けたいので」
美晴病院はトドロッキーのかかりつけで、リハビリもそのほかの不調があった時もトドロッキーはそこに行く。だから私も入院は美晴病院にしといた方がいざという時に便利なんじゃないかと考えた。何かしら私が判断しなきゃならなくなった時だとか、サインしなきゃなんない時だとか、考えられる局面の具体がよく分からないけど、なんとなく安心だ。
「どこに行っても一度帰宅して病院を変えることはできますよ」
救急隊員は言った。
ふむ。でも家庭状況的には1日でも早くアキレス腱をつなぎたい。手術はすぐにでもやってもらいたいくらい。一度帰宅して病院を変えるとそこでまた日数を取られる。それはちょっとなあ、最初から晴海病院がいいなあ。
だいたい、見晴病院って、救急隊員が提案する酢具底救急病院よりは確かに遠いけど、プラス5分もあれば着く位置にある。すごく無茶なことを言ってる気はしない。
救急車ルールにハマらないようだったけども、けっこうしつこく家庭状況を説明してお願いした。どうせ却下を食らうなら自分にモヤモヤが残らないよう希望をちゃんと伝えた上で食らいたい。
するとその後、救急隊員と受け入れ病院側との間のやりとりで考慮すべき状況が出たようで、結果的に美晴病院に搬送してもらえることになった。
希望をそのまま受け入れてもらったわけでは決してないけれど、こっちから言わなければ美晴病院へ搬送となはならなかった感じだ。図々しく希望して良かった。
ありがとうございます救急車。
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搬送先の美晴病院では、夜勤の外科医が対応してくれたーーー。