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『一方、妻は松葉杖』13〜術後は痛み対策の妄想で忙しい〜

 拙著『夫が脳で倒れたら』(太田出版刊)のスピンオフ(笑)、『一方、妻は松葉杖』。脳梗塞の後遺症の右半身麻痺と格闘する夫の横で、妻もうっかり松葉杖生活に。そんなアキレス腱を切ってから10キロマラソン挑戦までの体験談。文中の「トドロッキー」とは『夫が脳で倒れたら』での表記そのまま、夫=轟夕起夫のこと。※医療の進化で現在は2015年当時とは違う治療方法が選べます! 1から読まれる方はこちらからどうぞ

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痛み止めの効果はちょっとで、すぐ切れる

 この日、リハビリ以外でやったことといえば、朝夕に化膿止めのための抗生剤を点滴で入れたことくらいで、他はとくになし。
 スケジュール的にはスカスカだが、私的には一日中痛みとの戦いでめっちゃ忙しかった。
 昨夜ほどではないが、手術部分のズキン、ズキンが、ハンマー的な何かで連打されてるレベルで痛い。

 処方された錠剤の痛み止めを飲めるのは一日で2回だけ。30分後くらいから効き始め、2、3時間少しだけ楽になる。自分の決めたタイミングで飲んでいいというので、一回目は松葉杖の練習をしたリハビリの時間に合わせて飲んだ。

 二回目は夜寝る時と決めているからそれまで痛い。さてどうしたものか。

 いつもの妄想で痛みと対峙するしかない。

 ズキン、ズキン、ズキン、ズキン……。

 地球外生命体ズキンは人間地球侵略を企み、人間の身体を次々と乗っ取っていた。痛みを与えては萎えさせ、また次の身体に移っていく。

 標的はアキレス腱断裂の手術を終えたばかりの女X(私)。ズキンは無数のトゲトゲ粒子に変体、傷口から入り込んで血流に乗り、身体のあちこちにトゲトゲを刺した。

 女X(私)の身体に次々と食らわす強烈ダメージ。乗っ取りはもはや時間の問題。

 −−そんな妄想。

 心臓が脈打つタイミングで攻撃してくるズキン。ズキンは全身を貫く。傷口で増殖していくズキン。このままでは身体が乗っ取られ、爆萎えする。とはいえ無数のズキンをまとめてツブす事など不可能。やられる。やられる。女X(私)は慄いた。

−−妄想なんだからみすみす負けを喫すわけにはいかない。

 ダメモトだ、女X(私)は抵抗を試みた。
体内に入ってくる粒子ズキンをこまめに体外放出していく地道な作戦を企て、覚悟を決めた。

 ズキン、放出、ズキン、放出。
 手探りで始めた放出作業は始め手こずったものの、やがて稼働がスムーズになっていった。ズキンは流れ作業的に放出されるようになっていく。
 ズキン、放出、ズキン、放出。

 このままいけば、まもなくズキンを壊滅できる。そんな希望を見出した女X(私)だったが、想定外の事態が起き始めた。

 放出作業の原動力は集中。集中は疲れるから、そう長くは続かない。集中を切らせようものならズキンの容赦ないトゲトゲ攻撃を連打で浴びる。痛え!
 再び集中。
 ズキン、放出、ズキン、放出、集中、弛緩、集中、弛緩……

 −−って、妄想し続ける集中力が途切れがちに。ならばと、ズキンのキャラを変更してみる。

 幼いやんちゃな妖獣ズキンの得意技は手術痕キックに手術痕チョップ、手術痕カジカジ。手術を受けたばかりの人間を探しては、得意技を得意満面で決めるやっかいもの。

「いたいたぁ、アキレス腱に傷のある人間が!」妖獣ズキンの目がキラリと嬉しそうな輝きを放った。ターゲットにしたのは、魔塔の占い師X(私)。

 やっかいな妖獣ズキンの攻撃を受け、ターゲットにされたことを知った魔塔の占い師X(私)は、塔の騎士団を率いて反撃を開始する!

 −−ちょっと妄想が続かない。ファンタジーに寄りすぎたか。リアルに寄せよう。

 手術痕を突破し体内へ侵入を謀るのは、バイキンの兵手術痕の砦には精鋭・ハッケッキューが集結、猛攻を仕掛けてくるバイキン兵に立ち向かう。繰り広げられる死闘。
 ハッケッキューのサポートスタッフ・ケッショーバンが傷口に結界を張るべく奔走するが、相次ぐトラブルで結界完成までに数日を要する見込みとなった。

 どうなる手術痕!

 そんな妄想で忙しかった手術翌日の夜は、戦いのまにまに睡魔にまかせ前夜よりは少し長い睡眠をとったのだった。

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点滴が流れていかない、痛み止めで胃が痛い

 さて翌日。外は雨。
 そういえば梅雨に入っていた。

 この日も朝夜に点滴があった。傷口の化膿止めのため抗生剤がテン、テン、流し込まれる。
 腕を動かすと針の先が神経を刺激するあの点滴針が腕に埋まったままだったのだが、いよいよ調子がおかしくなってきた。

 血管への流れも悪くなり液もなかなか落ちていかず、時間がかかり、ああもうこれ限界!な感じに。看護師に聞くと、点滴はあと1回を残すのみだという。だから、この針のままにしておいたらどうかと提案された。

 トドロッキーの点滴との格闘の日々が脳裏をよぎる。針の刺し直し場所をなんどもなんども刺し探られたトドロッキーの点滴災難のようにはならないだろうが、刺し直しはいやだなあ。しかしこのままではあとの一回が、かなりの痛みを伴うと予想し、決心した。

「抜いてください。次の回は改めて刺していただく、でお願いします」

 抜いてもらって状況改善と思いきや、すぐに次の問題が出現。胃が痛い。原因は強い痛み止め。これ以上飲んでは明日の胃が地獄と化す。胃の地獄と足の痛みを天秤にかけ決意し、痛み止めを飲むのをやめた。

 医師の回診では、ギプスについた窓の栓をかぽっと開けて、中の傷口の状態をチェック。

「いいですね」
 医師はそう言ってまた栓をした。膿んでいない、ということらしい。いいならば良いのだ。
 傷口に問題なしということで、退院が翌日に決まった。翌日は入院5日目、術後4日目となる。

ならばもうひとつ問題も決着しておきたい。
 ベッドから立ち上がって移動する時の看護師の見守りだ。これを今すぐにはずしてほしい。

看護師に聞いた。
「今日も見守りですか」
 もう自由にさせてください、松葉杖の練習もしたわけだし。

「見守りですヨ」
 心配しなくて大丈夫ですよ、という優しい笑顔で言ってくれたのだけど、そうじゃない、自由がいいのだ。看護師は日中、夜間とも毎日違う人が担当してくれていたから、申し送りが漏れているかもだ。はっきりと伝えなければ。
「今日からひとりで動いてもいいって言われてたんですけど、確認してもらえますか」
 看護師はすぐに確認してくれ、一人歩きOKが出た。
 やった! もろもろ解決。

 よし、入院生活あと残り丸一日。頑張って、無理やり楽しむぞ。