『一方、妻は松葉杖』15〜退院後の松葉杖生活のために、美容室で見たスツールをネット注文〜
拙著『夫が脳で倒れたら』(太田出版刊)のスピンオフ(笑)、『一方、妻は松葉杖』。脳梗塞の後遺症の右片麻痺と格闘する夫の横で、なんと妻もうっかり松葉杖生活に。そんなアキレス腱を切ってから10キロマラソン挑戦までの日々のこと。文中の〝トドロッキー〟とは『夫が脳で倒れたら』での表記そのまま、夫=轟夕起夫のことです。なおアキレス腱断裂の治療方法は当時のもので、現在は違う選択肢があります。1から読まれる方はこちらからどうぞ。

ギプスのままシャワーを浴びる方法
ミッション! 術後初のシャワータイムで、ギプスの内部に一滴も水を入れずに体を洗う。
水が術後の傷口を濡らしてしまうと、水から菌が移って化膿する可能性がある。だから傷口を絶対に濡らしてはいけない。
傷口を濡らさないためには、ギプスの中に水が入らないようにするだけじゃだめ。ギプス本体も絶対に濡らしてはいけない。これ、手術したギプス人の掟!
ギプスはそもそも、ただのデカい筒で、脚に密着もしていないため水が入りやすい。かつ、ギプス自体通気性がめっちゃいいため、水がかかれば中にも浸透していく。
もし傷を水で濡らしてしまった場合はどうなるか。
医師はこう言った。
「傷口を自分で消毒してください」
普段は塞がれていて診察の時にしか開けられることのないギプスの蓋を、自分で開けて、まだ見ていないし見たくもない傷口をこの目で見なければならない。さらに消毒作業を自分でなんて。
傷口なんか見たくない。いつか見る時がくるんだろうけど、少なくともまだ塞がってない傷口を見るのは絶対嫌。傷口の状態を想像するだけでゾッとする。なぜだろう、人の傷口を見るのは平気だけど、自分のは嫌だ。ましてやそこに自分で消毒液をヌリヌリするなんて。嫌すぎる。
処置をしないで放っておいたとして、万一化膿したらどうなるか。
医師はこう言った。
「傷口をまた手術で開いて内部を消毒します」
ダメ絶対。そんなことになるなら消毒処置するし、その前に何としても濡らさないんだし!
で、看護師が教えてくれた防水テクニックはこうだ。
準備するのはビニール袋と布ガムテープ。
・ギプス足がすっぽり入るポリ袋をはく。
私の場合は30ℓのポリゴミ袋。
・ギプス上で袋の口をひとつ折り返す。
口のラインを揃えるため。
・口を布ガムテでぐるりと皮膚にはりつける。念のためもう一巻き。

これで完成。
毛深い人なら毛を剃らないとだし、皮膚の弱い人にはどうかと思うけど、私はこれで防水効果ばっちり、まったくもって大丈夫だった。
この方法は足だけじゃなく手にも使える。
怪我なんかでシャワー時に手を防水したかった時が幾度となくあった。もっと早くに知っていたかったなあ。
退院後の生活のための、病室ネットショッピング
その日の夜、最後の点滴の時間。
針をそれまでとは別の箇所に刺し直して、朝の絶不調な点滴とは一転、薬液は快調に落ちて早々に終了した。
血管の状態で流れは全然違う。トドロッキーの脳の血管は詰まって脳梗塞を起こしたけど、血管のもろさを体感。でもさ、と考えてみる。
点滴の薬液が流れずらかった血管はやがて回復する。だったらトドロッキーの詰まった血管は回復してもおかしくない。どうにかなんないもんかな・・・。
退院はいよいよ翌日の午前中。病室のベッドにて最終夜を迎え、入院生活四日間を振り返った。
持って来た本はほぼ読まなかった。体の全力が傷の治癒に駆り出されたため(と思う)、読書の余力がなかった。ぼんやりとテレビを眺めるか、ぼんやりとスマホでラジオを聞き流していただけ。
当然だけど家のことも何もしてない。
何もしない、をした四日間だった。
いや、ひとつ、退院後のためにしたことがあった。
ネットショッピング。
まずは、ウエストがゴムのスカート。長いのと短いの。ギプスが目立たない程度の長い丈のは外出用。膝丈のは家用に。
いつものジーンズではギプスの足が通らない。座ったまま上から被って装着できる下半身の服となると、ウエストがゴムのスカートだ。
実際とっても役に立った。
そしてもうひとつ、コロコロキャスター付きのスツール。
入院直前、ギプスに松葉杖での家事をやったけど、これが非常に困難だった。移動時に松葉杖で両手がふさがれることが原因。家事の大部分はものを運ぶ仕事なんだってことを痛感した。なんとか対策しなければだ。
いっそ車椅子を用意するのがいいかもだけど、ウチの狭い台所に車椅子で入るのはかなりキビシい。
車椅子ってそもそもデカいんだよなあ。
ちっちゃい車椅子ってないのかなあ。
だったら椅子にキャスターがついてればいいだけなんじゃない?
と、脳内会議で代替品を使用する案出現。
ウチで代用できるものが何かない?
できれば出費は控えたい。家計シバリは積極考慮だ。
あるじゃん、デスクチェア!
いや、ウチのデスクチェアって私のも息子のも車椅子級にでかい。
ちっちゃいデスクチェア、小学生用のくらいのなら使いやすいかも。
ウチにはないけど、それなら激安のが売ってそうだ。とはいえ、足が治ったら使い道はない。捨てるのもったいないなぁ。
どうせ買うなら、足が治っても使い道のあるやつがいい。存在が小さくって、座れて、コロコロキャスターが付いているもの。座れればいいんだから椅子じゃなくても・・・コロコロ付きワゴンとか、コロコロ付き棚とか、コロコロ付きのサイドテーブルとか。何かないか?
そうだ、美容師が使ってるキャスター付きのスツール! あれどうだろう。
機能、サイズ、よくない? あれなら座ったままトイレにも入っていけそう。買っても安そうだし、足が治っても使い続けられそう。
すぐにネット検索した。
けっこう安く売っている。
そして、私と同じことを考え、同じ用途で使っている人がまあまあいることもわかった。
今注文すれば配達日が退院の前日ってタイミングだった。退院直後から使える! よし、注文! てことでネットショッピングした。
病室にいながら買い物ができたことに感動し、ネット社会に感謝した。
いよいよやってきた退院の日の朝。
たまたま学校が休みの日だったため、大人になりかけの息子たちに来てもらい荷物を運んでもらう。ありがとう息子。
家に到着してみれば、当然散らかっていたが想定内、問題ない。トドロッキーの体調も、相変わらずで決してよくはないが、想定範囲内で収まっていた。
スツールはちゃんと届いていた。組み立てが必要なスツールだったが、なんと息子が既に組み立ててくれていた。いつも気がきかない息子だが、成長したもんだ、でかした息子! ん? 座ってみたかったから組み立てた? 本意をそのまま表現しなくてもいいことを次は学んでくれ。とにかくありがとうだ息子!
キャスター付きスツールをじっと見つめた。
君がツカえるヤツであることを祈る。
さっそく試してみることに。