改良品発売に向けて、試作品を試す日々

 夫の片手が麻痺をして、片手仕様のリュックサックを作りました。気づけばもう3年前のこと。夫は3年前のリュックサックを今も使い続けています。職人さんがしっかりと丈夫に縫い上げたリュックサックだということが、夫のリュックサックを見るとよくわかります。ありがたい。職人さんすごい。まじリスペクト。ありがとうございます。

 職人さんの縫いのアイディアと技術に助けられ、とても使いやすいリュックサックになりましたが、それでもまだ肩紐が肩から落ちてしまう人がいる点、課題ではありました。夫の肩からは、肩紐は落ちづらいようですが、夫と同様の麻痺を持つ女性からは、時々肩紐が麻痺側の肩から落ちるため、肩紐同士を胸でつなげるベルトをつけてほしい、という要望がありました。

こんなやつです、胸のベルト

 胸にベルトをつけることに、私は躊躇しました。なぜかといえば、ベルトをかちゃりとはめる作業は片手では難しいから。背負って歩いて肩から降ろし、中のものを出し入れする一連の作業が片手でできないと、片手仕様のリュックサックと言えないし、何より胸のベルトがあるとデザイン的にかわいくない。

 「肩から落ちない」をなんとかしたいと思いました。どうしてもなんとかしたい! 片手仕様で、もっと肩から肩紐が落ちずらいリュックサックを作りたい! デザインもよくて、軽くて、ファスナーを閉める作業をしなくてすむ、背負ってて中のものが露にならない、ものがたっぷり入って、少しの荷物でも形が崩れない、そういう使いやすいリュックサックです。

 麻痺のある人が使いやすいリュックサックなら、どんな人にも使いやすいリュックサックです。

 荷物が少量で仕事場には行くけど、帰宅途中に食材を買いたいときも、エコバッグなしで対応できるリュックサックになります。つねに両手が空くリュックサックは、いろんな人に便利なリュックサックです。

 スーパーでキャベツ1個やダイコン1本買っても丸ごと入る、ネギだってゴボウだって切らずに入れられて、フランスパンももちろん背負えちゃうリュックサックはとっても便利。

 そんなリュックサックはこれまで出会ったことがないので、やっぱり構造から考えなきゃです。3年前に作ったリュックサックも構造から考え直しましたが、改めて考え直す必要がありました。

 というわけで肩紐に焦点を当て、片手仕様リュックサックの改良品開発に着手したのがもうずいぶん前。開発といっても私ひとりの作業です。あれこれ考えて試作品を縫っては、実際に背負って生活してみて、仕事で使ってみたり、買い物したりで使い勝手を検証して、いまいちな点の原因を考えて、これかなと思う部分の構造を考え直して、また試作品を作って、試して…。

 そんなことをしている間に、3年前に作った形のリュックサックの在庫が尽きてしまいました。やってしまいました。在庫管理、超ムズです。

 試作といえど、実際に使うのでロゴを入れたりしています。実際に日々使ってみるので、ちゃんと仕上がってる風がいいですから。

 素材を変えて、自立するかどうかとか、縫いやすさを検証したり。色を変えて雰囲気を見てみたり。縫いあがっても、全部ほどいてまた縫い直し、を何度も繰り返しました。

 張りのあるナイロンがやっぱり自立しやすくて撥水効果もちゃんとあって、汚れずらく日々のカバン素材としては秀逸なわけですが、個人的に気に入ってるのは帆布です。縫い直していくと、エイジング加工みたいなことになって、さらに味わいも出るので、愛着ゆえしつこく縫い直しちゃったりしています。帆布、好きですねえ。

 いつかはこのリュックサックで生活費を稼げるようになりたいんですが、まだまだ全くですので、別の仕事をやっています。仕事の合間にこの作業をチマチマやっております。チマチマチマチマ。縫ってはほどき、もくもくと。

 ときどき自分を見失います。なんでこんなことやってるんだろうって。時間ばっかり過ぎていくので。そんなときはカップヌードルを発明した安藤百福さんのメンタルのかけらを、お空から取り込みます。妄想的に言えば「下ろします」。

 あれはカップヌードルミュージアム横浜がオープンしたばかりの頃。2011年オープンの日清製粉の博物館なのですが。2011年て、なんともう20年以上前のことですか…。当時、手掛けたデザインが次々話題となっていた佐藤可士和氏がプロデュースした博物館だとの宣伝にまんまと絡められ、どんなイケイケな(死語?笑)空間になってるんだろうって点に興味をそそられ訪れたわけですが、そこで安藤氏のことを知りました。自宅の裏庭のちっちゃなボロ小屋を研究場所に、もくもくとあれこれ試行し続けた一見クレイジーな日々と、その成果が世界中の人の生活を変えたという偉業はあまりに童話、すごすぎる人なので、へえ、そんな人がいたんだくらいの感想でしたけど、今になってその逸話に力をもらってるわけです、妄想的に。安藤氏もたったひとりで作業してたので、師匠とさせていただきました。妄想的に。

 とはいえ、私、安藤氏に遠く及ばず人間ができてないもので、モチベーションの波も当然ありまして、投げだしてしまうこともしばしば。

 ふと思いつきで草柄のシーツを作ってみたり。ちなみにこれ、自宅にいながら、だらだら寝ていても不思議とピクニック気分が味わえるのでお気に入りになりました。

 「マンダロリアン」のグローグーの可愛さにやられたときは、購入したグッズのうちのいっこ、グローグーのバッグ1個をクッションマット2個に仕立て直してみたり。試作リュックサックの生地として購入したサテン調のナイロン生地を使い、低反発ウレタンをくるみましたら、とっても素敵なクッションマットができたのですが、これは実用にはあまり出番がなく、部屋の隅に鎮座することに。

  お世話になった方に、袋物を作ってプレゼントしたり。家族にわんちゃんのいる方には、わんちゃんの足跡をトートの底にプリントしてみましたら好評で、シリーズを作ったりしちゃったり…

 そんな寄り道迷走をしつつ、リュックサックの方もやっと作りたい改良版の構造が完成したので、その構造については特許申請をいたしました。ふう。

 構造はできたものの、デザインをもっと詰めたくて、さらに試作を重ねております。

 きっと、商品化までもうちょっとのところまで来ているはず。

 これから、こんな感じでラフに状況を報告させていただきます。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。