【TOKYO BACKTOTE】の購入型クラウドファンディングでの販売は
6月20日をもって終了いたしました。
一般販売は8月以降予定です。
関連本(紙・電子)『夫が脳で倒れたら』は
書店、Amazon、楽天ブックスなどにて発売中です。

1 ことのはじまり

02

 オットは右半身に麻痺がある。ざっくり言えば右手と右足が不自由で、脳梗塞の後遺症である。
 これは、オットが脳梗塞発症後7ヶ月間の入院生活から戻り、半年が過ぎた頃の話——。

 帰宅したオットは、自由に動く左手足を駆使して身の回りのことはだいたいできるようにはなってはいた。ボチボチながら仕事復帰も果たしていた。
 とはいえ、まだすぐに体調を崩す危なっかしい日々だ。
 さて、私。
 やるべきことのうち、ひとつ大きな課題が見えて来た。自身の『健康』。
 脳内に元来体育会系の単純発想が浮かぶ。すなわち『健康』=『スポーツ』。ただ、40代がまもなく終わろうとしている年齢、がっつり体力が衰えていること は自覚している。やるなら中高年に優しいスポーツだ。しかも楽しいのがいい。どうせならやったことのないスポーツにチャレンジしたい!

 そんなときだった。近くの体育館の自由参加プログラムにバドミントンがあることを知った。
 うたい文句はこうだ。
『中高年からでも楽しめるバドミントン』
 ユルい!
『初心者には指導員が指導します』
 ありだ!
 私、バドミントンの経験はとくになし。公園で遊ぶ程度。
 テニスは昔やっていたからラケット持つのは慣れているけれど、バドミントンの打ち方の知識は全くなし、ルールもよく分からない。でもずっと、ネットの張られたコートでちゃんとやってみたかったバドミントン。
 いい!
 けっこうな高揚感に浮かれながら体育館に向かったのだった。

 体育館には、バドミントン歴ン十年みたな猛者から私みたいな初心者までがわさわさと集まっていた。
 コートがずらりとセットされ、そのうち2面が初心者用。指導員がついて基本技術を指導している。
 誰も知っている人はいなけど、気兼ねなく練習の輪に入れそうないい雰囲気だ。

 初心者用コートでは指導者がタマ出ししてくれる練習があって、まずはこれに参加。
 うん。難しい。でも楽しい。
 フォームを指導されたように直して打ってみる。
 パシッ。
 難しい。
 打ってみる。パシッ。
 なんか違う。
 パシッ。パシッ。パシッ。
 時々うまくいくのが嬉しい。夢中。
 パシッ。パシッ。
 ガタン! ん?
 伸び上がって打った次の瞬間、着地し体重を乗せた右の踵に強烈な違和感が走った。
 落ちているシャトルでも踏んだか?
 踵に視線を落とせば、踵の下にシャトルはない。周囲にもない。何も踏んでいない。なのにまだ何かを踏んでいる違和感。
 さっき聞こえて来た、ガタン!という音が脳裏に蘇る。
 踵の違和感は続いている。
 何かが起こっている。
 これって、もしやあれか?
 アキレス腱を切った音?
 アキレス腱は切れるときにすごい音がするらしい。
 違和感のある場所は踵か? いや、アキレス腱あたり。
 ということは……。
 確信した。
「あの、やっちゃったかも知れませんっ」
 目の前の指導員に伝えた。
「どうしました」
「アキレス腱やっちゃったかも」
「歩けますか」
 ゆっくり歩いてみると、意外に歩ける。ただ、普通通りには歩けない。
 スタッフ事務所に導かれ、パイプ椅子に座る。
 指導員がシューズを脱がしてくれ、アキレス腱を見て即言った。
「切れてますね」
 ……だよね。
 情けなく笑う私に、彼はもうしわけなさそうな視線を返した。
 確信があったけれど、指導員に断言されて初めてゾッとした。やっべ〜、やっちゃった〜〜。

 それからの指導員の行動は早かった。
 私のアタマがやっちゃった〜〜やっべ〜〜をリフレイン中、彼はテキパキと救急車を呼ぶ段取りをつけた。

Follow me!